フツーのバンドの場合、活動を続けていく中でメンバーが成長していき、バンド自体もそれに合わせて次第に完成されていくものである。が、PINKはフツーのバンドではなかった。メンバーはそれぞれ、すでに自分の世界をしっかりと確立したプロフェッショナルであり、結成された段階でもう完成されていた。そこにPINKのすごさがあり、同時に悲劇もあった。
しかし当のメンバーたち、少なくともホッピー神山氏は、活動停止という今回の事態を”悲劇”とはとらえていないようだ。現在の心境について、「ボクはもうスッキリですよ」と笑う氏は、下山淳、池畑潤二と組むニュー・バンドのことなどを実に熱っぽく語ってくれた―――。
(インタビュー・文 前原政之)

■PINKとしての活動から得たものというか、ホッピーさんが変わられた点は?

「あ、それって『人間不信に陥った』とかそういう答えを期待してない(笑)?・・・・・そうだなあ、我々はやっぱり音楽を通じて世界を見ていますからね。音楽を通じて真実を見極める力というか、そういうものを養うことができたね。その意味で、ボクはPINKをやってきてすごくよかったと思う。」

■今後のPINKについてはまったく白紙なわけですよね?

「うん、もう白紙。もともとPINKは精神論、根性論でスタートしたわけじゃないし、運命共同体的なバンドじゃないからね。ただ、このメンバーが集まれば絶対すごいものが作れるという、その信頼の一点だけでつながってたようなもんだし・・・・・。だから、もう一度PINKとしてやるにしても、今後数年間は各々が自分のやりたいことをしっかりやって、それからだろうね。やるんだったらPINKの名を汚さないものにしたいし・・・・・。」

■新作の『RED&BULE』はどんな感じで作られたわけですか?

「もうバラバラ(笑)。ボクと岡野くんは、PINKのレコーディングって決まってから、7月、8月くらいの短期間で作ったわけ。で、いっぽうエンちゃん(福岡)は春から秋までじっくりかけて5曲作ったの。その5曲に岡野くんは少し参加してるけどボクは加わってないし。レコーディングに呼ばれもしなかったしね。だから今回のアルバムに関しては、PINKでやろうが他のミュージシャン使おうが自由だったわけ。でもね、ボクはバンド志向の人間だから、PINKという名前で出すからにはPINKのメンバーでやるべきだと思った。だから、エンちゃんがPINK以外の人たちばっかり使ったことに対して、考え方のすれちがいってのはすごくあったね。」
「今度のアルバムに入ってるボクの3曲は、一つのテーマでつながってるの。最初が『ベルリンは宇宙』で、次の『小さな男の大きな夢』の「小さな男」ってのはヒトラーのことなのね。で、最後の『ICON』はギリシャ神話から取ってて・・・・・だからヨーロッパ的な退廃感だね。でもそれは日本人としての自分をきちんとふまえた上で表現してるんだ。あと『ICON』というのはニコのニックネームのもとになった言葉なんだよね。ボクはニコがすごく好きで、彼女が死んじゃったときショックでさ・・・・・この『ICON』は、だからニコに捧げる曲でもある。」

■ホッピーさんの中で、バンド活動とプロデュース・ワークは、どんな風にバランスが取られているんでしょう?

「バンドに関して言えば、ボクはバンドを仕切ろうというつもりはまったくないわけ。というのは、ボクは”バンド・マジックがものすごく好きなのね。何人かのメンバーが集まってやったときに、メンバーの誰もが予想できない、まったく別のものが生まれてしまうという”マジック”ね。そういうのを中学時代に初めて体験してからもうやみつきでさ(笑)。だから、今回PINKを休止するにあたって、整理をつける意味でソロ・アルバムを作ることも考えたんだけど、下山とバンドを組む話ももう決まってたしね。ソロかバンドかということになったら、ボクの場合バンドを優先しちゃうんですよ。」

■その、下山さんとおやりになる「フラワーヒップス」ですが・・・・・。

「あー、そのフラワーヒップスってのはね、下山くんたちとこの前一緒にやったイベントの名前であって、バンドの名前じゃないの。うん、バンド名はまだ未定、ベースも、もう候補は決まってるんだけど、諸般の事情で名前はまだ教えられない。ボーカル(各誌を通じて一般公募していた)は、これはと思うのが三人くらいいて、そろそろ決まる。」

■バンドの具体的な方向性としては?

「まだボーカリストが正式決定していない今の段階では、何とも言いようがないね。ジャンルってものも決めてないし。だからメンツが揃って初めて音を出したときに、いったいどんなものが出てくるのかってことで、ボク自身もワクワクしてるわけ。ただ、シンプルな音にはなるね。ボクはできたらオルガンひとつでいきたいし、下山も、今までみたいなゴージャスなスタイルのギターじゃなくて、音をひずませずに弾きたいって言ってるし。池畑くんはドラム三点セットでいくし・・・・・。」

■まさに「ロック」という感じですね。

「そうね。基本的にはロック。でも決して”レイド・バック”じゃなくね。うしろ向きの音ってダメなんだよ。今のイギリスが沈滞してるのは、みんなうしろ向きだからだよ。U2がいいのは、唯一前向きなバンドだからだと思うしさ。ボクは60年代のロックってすごく好きだけど、それをそのままやってもしょうがないんだよ・・・・・まあ、見ていて下さいよ、すごいのやりますから。”青春パンク”とかそいういうやつら、全部けちらしてみせるから。下山くんとボクは、ぶつかる部分もいっぱいあるような気もするけど、そこが逆にオモシロイと思うんだ。」

(1989年4月号「DOLL」掲載記事)


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「DOLL」掲載記事③ TOKYO-混沌-PINK >>

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