●10月28日にリリースされた『CYBER』を引っさげて、PINKのツアーがいよいよスタートした。今回は、エンちゃん以外の人もボーカルを取ったり、楽器も担当以外のものを使ったりと新たな魅力がいっぱい!

PINKのコンサートで味わえる感覚は、暖かい毛布にくるまれているノビノビとした開放感のようなものであり、そしてまた、張り詰めた空気の漂う空間に一人取り残されたような危うさでもある。それはメンバーのケタハズレの演奏テクニックの織り成す音の饗宴が安心して聴いてられる完成度の高いハーモニーを作り出すのと同時に、スレスレのところで共存している、戦っているのが感じられるからだと思う。

暗い場内に一人、また一人とメンバーが登場するとそれに合わせて音が重なっていく。嫌が上にも興奮させられてしまう。そのてにはのるものかと必死で思っていてもそうはいかない、結局いつもPINKのペースに巻き込まれてしまうのだから実に情けない。こうして一曲目の「GO EAST」から彼らのペースでコンサートはスタートした。しめやかとでも言うのだろうかスローなテンポでぐいぐいとせまってくるこの曲は荘厳なイメージさえ受ける。

この日は10月28日にリリースされたばかりのニュー・アルバム『CYBER』からのナンバーを中心にしたステージ構成で、9曲までが実にこのLPからの曲のみで行われた。それもそのはず、何と言ってもこのアルバムは1.5枚組み、全14曲のボリュームを誇る大作なんだもの。たっぷりと『CYBER』を楽しめたということは、そうですエンちゃん以外の人のヴォーカルもたっぷりと聴くことができたというわけ。

まずは岡野さん。「DR.MIDNIGHT」ではいきなりベースを肩から外してしまったのだから驚き。ステップを踏みながらエンちゃんと互角にヴォーカルをとる。エンちゃんの絡みつくような声と、岡野さんのそのベース・ラインのような重いフィジカルな声が、独特のあやしい世界を作り上げていた。続く「CLIMB BABY CLIMB」ではPINKのバンドとしての面白さというか、幅を見せ付けられた。やはり岡野さんとエンちゃんがヴォーカルをとるこの曲では、ホッピーとスティーヴがステージ前方に出てきてコーラスを付ける。後方で正確なビートを刻み続けるカメちゃんもコーラスに加わって、さらに厚みをつけていた。やっぱり並みじゃないよね。音の厚みもコーラスの厚みも。

そして「FIRE」。今度はエンちゃんがギターを持っている。ヴォーカルはもちろんホッピー。70年代ハード・ロックを思い起こさせる伸びのある声が心地いい。そのホッピー、「二人の楽園」ではギターを持った雄姿も見せてくれた。よく見ると、サポート・メンバーの横山さんがキーボードを弾いている。何だかみんな変幻自在の魔術師みたい、こんなマジックが味わえるのもPINKのステージならではの醍醐味だ。

後半は「SCANNER」から始って「MOON STRUCK PARTY」、「BODY SNATCHER」、「ZEAN ZEAN」等々。PINKのライブの王道ともいうべきビートの効いたノリノリの曲で会場はダンス、ダンス、ダンス・・・・・。

コンサートはたっぷり2時間その間PINKの発する音の粒子は会場を覆いつくしていた。それはもう飽和状態、一触即発の危険な感じと同時に、その音の粒子が皮膚から身体に染みわたって酔ってしまいそうな気分だった。

新しいPINK。そんな言葉が浮かんできた。もっともっと深く、もっと広く、まるでアメーバのような・・・・・。

「GB」1988年1月号掲載