昨年11月にロンドンでライヴを行ったPINKは、マーキーの店員に ”いくつか日本のバンドは来たけれど、ポップのバンドは初めてだ” と言われたそうだ。なるほど、その言葉は僕のような洋楽生活者がPINKに出会った時の感触にも近いかもしれない。日本のドメスティックな音楽にまとわりついているゴミやホコリをふるい落とし、洋楽世代の感覚で純粋培養してみせたポップ。オリコンのチャートに載っているような音楽とはほとんど没交渉の僕にとって、そんなPINKの音楽の出現はすごく気持ちの良いものだった。

そして、この3作目を聞く頃には、PINKのサウンドは、例えばポリスやジェネシスのそれとおなじように、僕の身近な音になっている。彼らの音楽の中に様々な洋楽の影響があるのは確かだが、イギリスでちょっと売れている新人バンドなどよりは、はるかに個性的なバンド・サウンドをPINKは持っている。デビュー作の頃は各メンバーの音が激しくぶつかりあっていたのが、この新作ではエネルギーのコンロトールが巧みになり、よりバンドらしいこまやかなウネリが出て来た。

ちょっと意外だったのは、シングルのA③(Keep Your View)以下、スロー~ミディアムの曲に重きを置いた感じの作りになっているところだが、ディレクター氏に聞いたら、これは「日本ではアップ・テンポはアイドル以外ヒットしない。ロック・バンドがヒットを出すには、メロディックな曲じゃないと」という狙いからだそう。デビュー作の「ヤング・ジニアス」のような破茶目茶なダンス・チューンが好きな僕は、そういう戦略は残念な気もするが、「ここで売れないと、次の活動が考えにくくなる」と言われると文句もつけにくい。

僕がアルバム中で断然気に入ったのは、近田春夫作詩のA⑤(Scanner)。ブレード・ランナー感覚のシュールなダンス・チューンで、こんな曲を作れるのはPINK以外にない。ライヴで演った時のエンちゃん(福岡ユタカ)のダンスも、パフォーマーとして一皮むけたと思わすカッコヨサだった。ただ、アッという間に終わっちゃうんで、ぜひ過激にエディットした12インチ・ヴァージョンを作って欲しい。

あとはパール兄弟の窪田春男のシャープなギターの決まったA②(Naked Child)、ホッピー神山が作曲に絡んだファンキーなB②(Body Snatcher)④(Electric Message)もお気に入り。逆にいうと、前作以来の吉田美奈子作詩の曲は、エレガント過ぎて、僕には距離がある、と、やはり最後に言ってしまった。デビュー作以来、かなり温度差のあるふたつの方向を持ち続けている彼らだけれど、これにどう決着をつけていくのかが課題かな。注文の多いファンだと言われそうだけれど、それだけ彼らの未来は他人事じゃない気がしてる。そういうバンドだ。

(高橋健太郎)

「MUSIC MAGAZINE」1987年2月号掲載