ピンクのメンバーの中では最もスタイリスト。と言ってもメンズ・ノンノしてるわけじゃなく、この日も大きな鍔の帽子、サイケなプリント・シャツと、なかなかに個性的。ロンドンでも精力的に買い物をして、他のメンバーやスタッフを驚かせた。
「僕はヘンなものが好きなの」
こう公言してはばからない。
「その上でカッコよくないとね」
わかりやすく言うと、人と違うもの、つまり個性のあるものということになる。彼のファッションも音楽も、このポリシーに貫かれていると言っていいだろう。
「要するに、みんなが好きなものがイヤなの」
その「ヘンなもの」との出会いは、こんなふうに始まる。
「例えば、電話機を買いに行くとする。家を出る時はカタログを見たりして、何を買うか決めてるわけ。「コレが便利そうだ」とかって。でもそれを買いに行く途中で、最初に決めたのよりヘンな色とかヘンな形の電話機を発見しちゃうの、なぜか。そうすると「コレにしよう」って買っちゃって「不便だなあ」と思いながら使ってる(笑)」

寄り道体質と言える。王道は何であるか知っていてもついヘンなものに吸い寄せられる性格は、幼少の頃から変わっていないとか。
子供の頃はブリキのオモチャが好きでね。まだ家にたくさん残ってますよ。異形のものを愛するっていう性癖がその頃からあったんじゃないかな」

もすこしオトナになってロックなどというものに興味を持ち始めた時もそれは変わらず、「レコード屋さんに行っても、みんなが聞いてるのは買わないわけ。誰も寄り付かないような棚にあるヤツを「ジャケットがヘン」とか言って買ってくる。そのおかげで随分失敗もしてますけど(笑)」
そのヘンなジャケットのレコードのひとつがT-Rexシングル「テレグラム・サム」のだった。
「グラム・ロックだけはなぜかリアル・タイムで聞いてたんだよね」
派手なコスチュームやメイクで一世を風靡したグラム・ロック。そこに彼はひとつの美学と哲学を見出す。
「グラムやサイケなら、何でもって感じでもなかったんだけど、今でも脈々とある、デタラメな開放感というか、それが好きなんだと思う。昔のグラムのアルバム聞いてると、ナンデこんなところにこんな音が入ってるんだろうというようなのがある。きっと自分たちでも制御できなかったんだろうね(笑)。そういうナゾめいたのが楽しい。自分ですべて制御しちゃったら、音楽って面白くないと思うんだ。偶然何かになっちゃったっていうほうが、面白いんじゃない」

最近はちわきまゆみやウィラードのプロデュースを手掛け、ベーシスト以上の活躍ぶりだが、そこでもこの価値観は貫かれる。
「メチャクチャやればいいってもんじゃなくて、表面上はポップを装いつつアバンギャルドなものというのが、カッコいいと思ったり、キレイと思わせる。それが最初にして最後の目的」
しかしよく見ると(聞くと)タダのキレイやカッコいいものでないのが彼のやりかた。もはやキレイなものをキレイに見せるだけでは誰も満足しない。その上を行く方法論を使わなければダメだと彼は言う。
「だってさ、「ザ・フライ」なんて、ムカシだったら吐いちゃうよ(笑)でも今は女の子もヘーキで見てるでしょ」
いかにしてフツーじゃなくカッコよく、それでいてポピュラリティのあるものにするか。それは計算ずくでは作れない。

かくして持論は「究極の予定調和」と結論される。つまり、偶然発生的でありながら完成されているもの。そんなせいか、ピンクにはプロデューサー的な面を持ちこまないようにしているものの、「ピンクをワケわかんなくしてる一人」と自慢する存在になってしまったが、彼のベースなくしてピンクは踊れない。

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