父親の美術全集を見て、初めて芸術に触れたのが3、4歳の頃。そして10代でT-REXに出会い、その強烈な個性に魅かれる。様々なショックが尾を引いて今の自分に至っていると言う岡野ハジメ。いずれにしても「僕は美しいものが好き」とのこと。1時間以上のインタビューで、とても色々な事を話してくれた様に思う。ベースを持ったマーク・ボランと言われる彼の感性の原点を、少しだけど覗けた気がする。
エンちゃんとは歌詞についての話をしたんだけど・・・・・、という所から話は始まった。
僕は今の日本の歌の詞の98%くらいは許容出来ないの(笑)。詩の訴えようとしてる内容が嫌いなのね。あんまりにも現実的なテーマが多すぎて、すごい生臭い気がする。だからピンク・レディーとかは好き。昔の歌謡曲の詞とかも・・・・・。完全な非現実の世界があったでしょ、夢があったでしょ。僕は音楽ってのはそういうものであって欲しいから。だからGSとか凄い好き。ロマンチックな世界があるよね。「エメラルドの伝説」なんてタイトルだけでさ、ウワ~ッそんなハズないよって(笑)。今はそんな歌ないもん。リズミカルにはなってると思うけど・・・・・。皆が経験出来るような事をお洒落にやってるだけで、そんなの詞にする必要ないと思うし。だから、共感を呼ぼうとする作家の作為が見え見えなのね。こういう事すれば皆ドキッとするだろうとか。例えば高校生のSEXをオブラートにくるんで出せば、皆「うん、そうそう」って。そういうのはプロの仕事じゃないよね。
GSのコンセプトってのは、凄いロックだと思う。あそこまで非現実を高らかに歌いあげるのっては、僕はロックだと思う。あんな事はもうないでしょう。数万人の女の子がさ、涙流しながらさ、失禁しながらさ(笑)アイドル見てるって言う・・・・・。あ~いうヒステリックな状態って言うの?終わった後で放心してしまうとか、記憶がなくなってしまうなってことがさ、今はないよね。だって日本はドラッグってもんがないでしょ。ウッド・ストックとかみたいにさ、ドラッグや社会的なものを踏まえた上でトリップの世界に覚醒するってのはわかるけど、そういうものの力無しで、女の子の脳ミソにアドレナリンが放出する様なさ(笑)、今は無いよね。皆、楽しみ方知ってるからね。
あと、僕は美しいものは好きですね。皆そうでしょ。汚いものより美しいものの方がいいでしょう。一言じゃ説明出来ないけど、まぁお花が奇麗とかそういう意味じゃなくって・・・・・。僕はエロチックなものに美しさを感じるな。僕が奇麗だなぁって思うのは、それが歌でも人でも絵でも映画でも、やっぱりエロチックなもの・・・・・。最近なんだけどね、そういうのに気付いたのは・・・・・。でも僕はね、モノの趣味って幼稚園の頃から変わってないんですよ。あのね、うちの親父が絵描きを目指してて、戦争のおかげでその夢を絶たれたみたいな人だから、割と美術全集とかが家にいっぱいあったのね。でね、そういうのを抜き出して、面白いとか好きとか・・・、そういうのが今の趣味とあんまり変わってない(笑)。だから絵とか芸術とかの一番最初の感激は、恐らく、3、4歳の頃のシュールな体験って言うか、最初にそういうものを見た時の感激って言うのは今でも協力に影響してるんですよ。ミロとか、あ~いうポップなのが好きだったな。セザンヌとかルノアールは全然面白くもなんともない。あとね、ゴーギャンとかタヒチには相当エロチックなものを感じましたね。あれは凄い影響が大きい。あ~いう世界ってのはショックでしたよね。僕の場合は、色んな事に関してのショックが尾を引いて今に至るという感じで、音楽でも何でもそう。僕は最初ロックなって大嫌いだったの。で、聴いてたのは殆どフレンチ・ポップスとか、カンツォーネとかね。あとはシングル・ヒットの洋楽ものとか、GSとか・・・。で、まぁ中学生くらいになると「MUSIC LIFE」とか買い出すじゃない(笑)。そうすると僕のアイドルの人の写真が一枚載ってるんで、それを買って見ると、何か汚い奴等がさ、グランド・ファンクやらレッド・ツェッペリンやらその周りにいるわけ(笑)。そういうのは全然好きじゃなかった。そのアイドルっていうのは、中学の時はシルビー・バルタンとか、サンレモ関係の(笑)割とホワホワしたもの・・・・・。
それと、ディープ・パープルの「ファイヤー・ホール」って曲あったでしょ。あれが僕にとってのパンク体験だったの。凄いビックリした。パープルの他の曲と違って、あの曲って凄くパンクだったんだよね。それ以来割とロック、ロックみたいになっちゃって・・・・・。でも、フリーとかね、あ~いうブルージーなものってあんまり好きじゃないの。僕はロックでもキライなのはいっぱいあるのね。何か人生を歌いあげるって言う感じのってキライ。パープルってバカじゃない。何にも無くってダダダダダダダって(笑)だから今の若い子がパンクに感じるのと同じのを僕はディープ・パープルの「ファイヤー・ホール」に感じた。T-REXに関してはね・・・・・、グラムのコンセプトって言うのは男がお化粧するっていう、その性倒錯ってのが第一のテーマなんだけど、それが僕のアートの基本だったりロックの基本だったりしてますね、やっぱり・・・・・。エロチックなものって、やっぱり倒錯してるんだよね。何処かこう真当じゃなくて、その真当じゃないモノが、とても美しいところに行こうとしているっていう・・・・・。
でも最近は面白いものが少ないよね。例えばさ、アイドルとかで、こいつが歌ったら絶対に売れるっていうのがあるじゃない?だったらさ、何してもうれるんだから、それを使って作家がもっと面白い事やればいいんだよね。でも誰もやらない。結局、才能がないんだと思うね(笑)。ホント、そういう結論に達してしまいますよ。こんなこと言うとあれなんだけど、でも僕は自分に対しても厳しいですよ。ちわきの「エンゼル」にしても、僕は自分で言うのは何なんだけれど、相当エネルギー使ったんだよね。だから次は相当いいものを出さなきゃって言う凄いプレッシャーもあって・・・・・。最初に頼まれた時、僕に頼むんだったら部外者の人の雑音は聞きませんからって言うのが条件だったの。全部僕とちわきで考えたものを作るっていう・・・・・。だから仕事としては楽しかった。その分、責任は全部降りかかって来るから消耗しちゃうんだけどさ。やっぱりカッコ悪いものを作りたくないもんね。でも、カッコ悪いものを平気で作る奴がいるからさ、で、必ず言い訳するんだよ、「あのディレクター、センス悪くって困っちゃったよ~。」とか、冗談じゃないって。僕はダサイもん出来ちゃったら自殺しようなかぁ~なんて思うよね(笑)。カッコつけじゃなくてさ、だから命がけになった瞬間も結構何度もあったんだよ。上手くいかなかったり、自分の思ってる世界が出来ない時ってのは苦しみますよね。自分の美しいと思ってるものを、とことんやんないと僕は気が済まないから。で、やっぱり、僕のイデオロギーに裏付けされたところのポップスを極めたい。それが僕のロックだし・・・・・。僕のロックってのは思想だから、別に音楽の形態なんてどうでもいいの。ただ何を言いたいのかっていう部分は絶対に譲れないよね。それを言葉で言うんじゃなくって覚醒するの。僕にとってのロックって強姦に近いものがあるのね。何かいきなり来てさ、後ろからさ、ガッとはがいじめにされて、何かわからない内に気持ち良くなっちゃったみたいなさ(笑)。やっぱり、そういったやり口で僕はやりたいな。
写真/高野小百合 文/深堀美帆
「SOUND NEWS」掲載(1986年9月発行)