100人に聞けば100のニュアンスが行き違う。戸川純のイメージはカレイドスコープのように変化し続けている。片や、あの、PINKのエンちゃんこと福岡ユタカ氏。未だ一度もレコード・ジャケットにその姿を現したことがなく、彼の歌は言葉というよりも本能を主体に成り立っている。さて、似て非なる2人が交わす会話とは・・・・・。
PINK PROFILE
’83年デビュー。ライブハウスに出演。ケタはずれのパフォーマンスが注目される。’84年10月に発売された「プライベイト・ストーリー」は映画『チ・ン・ピ・ラ』主題歌としてヒット。’85年、レコード会社をEPIC/SONYからMOONに移籍。5月、LP『PINK』をリリース。この年最高のロックアルバムとの呼び声も高い。ライブ活動も活発に行う傍ら、’86年2月、セカンドLP『光の子』リリース。
福岡ユタカはPINKのボーカル、サウンド・クリエーターとして今後の活躍は注目の的である。
戸川純 PROFILE
本名 戸川純子。昭和36年3月31日生まれ。牡羊座、B型、東京都出身。S57年、ゲルニカとして細野晴臣氏プロデュースによるアルバムでデビュー。その後、ドラマやCFなどで稀有なキャラクターが注目され、一躍人気者となる。TBS系ドラマ『無邪気な関係』『華やかな誤算』、映画『家族ゲーム』、そしてTOTOウォシュレットのCFなどが、その代表的なものである。S59年、初のソロアルバム『玉姫様』リリース。最新アルバム『好き好き大好き』も好評。ライブ・ツアーを精力的に行うなど、音楽シーンでも活躍中。
―――今日はお二人に、日本のロック・シーンについて語っていただこうかと・・・。
福岡 (笑)この前、大阪のラジオで、人体実験みたいな番組があって、(笑)僕にいろいろな12インチ・シングルを聞かせて、意見を言わせようとするわけ。キョンキョンのとか。で、”ファンにとってはこたえられないレコードでしょう”って言ったら、”優等生的発言ですね”って言われて。
戸川 ウルサイことを言うだろうっていうふうに見られてるのよ。実際、悪口しか出てこないって気はするわよ。
福岡 そんなことないよ。ロック・シーンなんて、別にどうでもいいの。関係ないんだ、もう。
戸川 ウン・・・・・それはあるわよね。
福岡 僕は自由に作りたいから、そのためにバンバン文句言うから、それが足かせになってるのかもしれないけどね。
―――戸川さんにつていはどう思います?
戸川 やめてやめて、それはキョンキョンの12インチを聞かせるような質問ですよ。
福岡 表現力っていうか、それはかなわないと思いますね。僕の場合は、詞の部分が弱くて、仮歌(まだ正式の詞がついてない状態で歌ってみること)の方が断然いいんですよ。言葉は入ると途端にシュンとしちゃう。純ちゃんの場合は、言葉を与えられると水を得た魚のようにピチピチと。(笑)
戸川 私は、これは人には負けないぞっていうのはね、羞恥心のなさ。そういうのは誰もかないっこないよ。(笑)こんなのよくやるよ、みたいな。そこらへんで尊敬されるとしたら、私は納得するわ。
福岡 それはけっこう真面目な問題でしょ。
戸川 あくまでも自分は歌手だと思ってるの。音楽を作る人じゃなくて、ここは役者っていうのと同じように歌手だという、ね。でも、エンちゃんって、人の脚本を演じるみたいに、どう?人が書いた曲とか。
福岡 あんまりやらないね。
戸川 でしょ。だからそういうのはやる必要がないと思いますよ。
福岡 前にも言われたね。この人はそういうことができない人なんだって。(笑)
戸川 必要があれば勉強すればって言うんだけど。なくて全然困らないわけだから、やらない方がいいと思うよ。
福岡 やっぱり好奇心はあるよ。やってみたいなって気もある。でも、それはちょっと垣間見て、シンドイと思ったよ。純ちゃんって両方やってるでしょ。それってスゴイと思うね。
戸川 問題がね・・・、全然解決されないまま宙ぶらりんでやってるわけだけどね。分けてるんじゃなくて、混沌としたままやってるって感じ。たとえば脚本で「今日は学校が休みだ、海に行きたいんだよ~ん」って書いてあったとするじゃない。(笑)私はその時「海に行きたいな」って言うけど、台本に忠実に、自分の気持ちに一生懸命近づけて「行きたいんだよーっ」って言ったとするでしょ。そこに演出家が出てきて、「だよ~ん」って言いなさいっていうでしょ。言わなきゃいけないわけよ。それがTVでオンエアされるわけ。(笑)
福岡 「だよ~ん」のイメージ。(笑)
戸川 そう。歌もそうね。それで白目むいてやってたりすると、完璧に一致してしまうわけ、「だよ~ん」と白目が。(笑)そういう困ったことって当然あって、それを自分の中でなあなあにしつつ・・・。
福岡 収拾がつかない。
戸川 もういいや、なのね。だからそこは羞恥心のなさですね。よく「どれが本当の戸川さんですか」とか「地ですか演技なんですか」って100回ぐらい聞かれたけど、こうなってくると地も演技もないのよね。
―――それは自分にとってつらいこと?
戸川 本当に苦しかったらやめてる。(笑)どこかに快感を覚えてるとは思う。今度はなるべく数多くの人格を増やすという方向にいっちゃう。(笑)
福岡 シュールだね。(笑)
戸川 結局実体がないんだというイメージ。
福岡 それ最高だね。僕も、自分の言葉って何なんだろうってあまり考えないで来た人なの。ただ好きな音楽作って。「どんな音楽に影響されましたか」って聞かれてもはっきり言ってナイの、全然。
戸川 自由だよね。イメージなんて必要ないと思うんだ。ただ、ヤダなっていうイメージに耐えていける精神はないとダメみたいよ。(笑)
福岡 とりあえずPINKは、まだあまり顔も見せてないから。
戸川 PINKはまだまだ汚れてないですよ。エンちゃんがイヤだっていうレッテルだってさ、ほかのイヤなレッテル考えてみればカッコイイよ。音にウルサイ集団って。
―――では、そろそろマトメを・・・。
福岡 ン!? マトメって必要あるわけ?
戸川 今度、またソロアルバムを作るときは、アレンジをお願いしたいわって、こういうことを言うのよ、マトメって。(笑)
「PATi-PATi」1986年5月号掲載記事