11月5日の東京渋谷公会堂、11月7、8日の大阪モード・ホールを最期にライヴ活動を休止するPINK。フィートかつテクニカルなグループとしての5YEARSをふり返る。


ビブラトーンズに聞くPINKサウンドの源流

PINKのライヴデビューは ’83年のこと。
当初は「おピンク兄弟」という名で、ビブラトーンズとその周辺のミュージシャンから成る不定形なユニットとしてスタートした。その頃の印象としては、レコードデビュー後のようにかっちりと構成されたサウンドではなく、もっとゴッタ煮的というか様々な音楽的な要素が雑然と盛り込まれているという感じでした。ただし当時からそのリズム隊は強力この上ないもので、ダンサブルという点では文句なしでしたね。そのファンキーなビートがエスニックな味つけと相まって、「お祭りだァ」的なムードを大いに盛り上げてくれたものでした。

さてPIKNのメンバーのうち福岡裕、矢壁篤信、ホッピー神山の3人が在籍していたビブラトーンズですが、彼らが残した作品は先頃発売されたCD『ビブラトーンズ・ファン』でその全容を聞くことができる。そこではすでにファンキーかつエスニックなサウンド、福岡裕の独特な作風とヴォーカルスタイルといったPINKの大きな構成要素となるものが感じられます。とりわけ彼らの代表作「金曜日の天使」では、PINKにおいても重要な位置を占めていたポリス風のサウンドと福岡の伸びのあるハイトーンを聞くことができます。また「地球の片隅で」における民族音楽ぽいサウンドに乗せたシュールかつスケールの大きな叙情性もPINKに引き継がれていくものと言えるでしょう。

 

バンドとしての方向性を構築したEPIC時代

’84年1月にビブラトーンズは解散、PINKは6人編成のパーマネントなグループとして6月にEPICソニーからレコードデビューを果たす。EPICからは「砂の雫」と「プライベート・ストーリー」のシングル2枚をリリースしたわけだが、2曲ともCMか映画主題歌に使われており、PINKが当初から最先端のオシャレな音としてギョーカイ受けの良かったことがうかがわれる。ただしこの2曲に関してはヒット曲狙いのプレッシャーでもあったのか、PINKにしてはスマートすぎるというか小じんまりとまとまってしまっていて、もう一歩の面白味に欠けるという印象は否めません。「砂の雫」のポリスっぽいビートや「プライベート・ストーリー」でのエスノ風ボイスなど、確かにPINKらしいものではありましたけど。

EPIC時代の録音はミニアルバム「Daydream Tracks」として、’87年に発売されていますが、ここではシングル2曲に加えて、1stアルバムにも収録された「ZEAN ZEAN」の別テイクやコンサートでのハイライトとなっていた「荒野の七人」のカバーなど3曲が聞けます。特に後者ではウェザーリポート風のシンセとサックスのイントロからエスニックなビートへ展開していくところなど、西部劇主題歌の原曲がまるで海賊船のようなイメージを喚起するあたりの無国籍サウンドと称されたPINKの面目躍如たる仕上がりになっております。

 

PINKサウンドを確立した1st

翌’85年にはムーンレコードに移籍、5月に発売された待望の1stアルバム『PINK』は、タイトルどおり彼らのサウンド・エッセンスが全て凝縮された1枚と言えるだろう。ポップなダンスチューン「DANCE AWAY」で幕を開け、ポリス風ビートをヘヴィに強化したサウンドを持つ「ILLUSION」、Tレックスぽい曲調をパワーステーション風のビッグなファンクサウンドとエスニックなボーカルで処理した「YOUNG GENIUS」、ケチャ風のコーラスをフィーチャーし、さらにパワーとスピードを増した「ZEAN ZEAN」と続く前半は圧倒的にパワフルで、PINKのバンドとしての真骨頂とも言うべきサウンド展開を聞かせてくれる。

後半はうって変わって静寂感に溢れた曲が中心となっており、PINKの叙情的な一面というよりもむしろ、ソングライター/ヴォーカリストとしての福岡裕の個性を前面に出した作りになっている。こうした曲においてもやはりエスニックな味つけがサウンドのキーとなっており、特に「RAMON NIGHT」におけるアフロっぽいボーカルは印象的なものです。ラストを飾るバラード「人体星月夜Ⅱ」は壮大な宇宙感を持つ美しい曲。ミディアムの「SOUL FLIGHT」も叙情性とビート感を合わせ持つ彼らの代表作の一つでしょう。

なお、このアルバムからは「YOUNG GENIUS」の”GIMMIX”バージョンが、12インチシングルとして発売されています。

 

さらに完成度を高めた「光の子」

’86年2月に発売されたセカンド『光の子』は、1stで確立されたPINKの世界をさらにスピード感と完成度高めた作品。ファンキーなビートはより強靭に、エスニックな味つけはより大胆に、叙情的な作品はさらにリリカルにかつスケールを大きくしている。それでいてプリミティブ&ハイテックというPINKサウンドの持つ相反する二面性は、より整合性を高くしている。

タイトルナンバーであるオープニングチューン「光の子」は、ガムラン風のサウンドとファンキーなリズムが見事に融合した、文字通り”光子”級のスピード感を持つ曲で、何となくポリスの「シンクロニシティ」を思わせる。続く「SHISUNO」は完全に中近東風のサウンドを聞かせるインストの小品。「日蝕譚」「HIDING FACE」とファンク、エスノ、叙情性が三位一体となった佳曲が続き、A面ラストは「YOUNG GENIUS」の流れを汲むソリッドなロック「GOLD ANGEL」が締める。

後半(B面)のスタートはシングルカットされた「Don’t Stop Passengers」、やはりポリスっぽい構造を持つハイスピードの作品であるが、ギターソロを大きくフィーチャーしている。続く「ISOLATED RUNNERS」も疾走感いっぱいの曲だが、サウンドはよりストレートなもの。「青い羊の夢」はファンキー&エスニックなPINKサウンドの典型。「星のPICNIC」はPINKにしてはシンプルなミディアムナンバーだが、キーボードのフレーズはかなりクセのあるものです。ラストは彼らのバラードものの代表作とも言える「LUCCIA」。この曲の美しさは筆舌に尽くし難いほどのものがあります。メロディと詞の良さはもちろんなんですが、シンプルな中にも繊細なディテールを持つアレンジが見事です。個人的な印象としてこの曲の持つ叙情性は、中期のキングクリムゾンに通じるものがあると思います。この曲と「光の子」のリミックス版を収めた12インチも発売されました。

 

頂点を極めた3rd&「トラヴェラー」

PINKサウンドの大きな転換期となったのが、’87年1月の3rdアルバム「PSYCO-DELICIOUS」。もちろん基本的な構成要素には大きな変化はないのだけど、例えばエスニックな部分が完全にサウンドの中に消化されることによってこれまでの無国籍的な表情は影をひそめ、より都市的というか極めて東京的なイメージが前面に出ている。アレンジも曲調に応じて必要最低限な音数に抑えられており、シンプルなサウンドを背景に詞とメロディ、ヴォーカルが浮かび上がる構造になっている。

つまり、それまでは福岡裕の書く曲と彼のヴォーカルがまず存在して、そこに各メンバーの持つ音楽的な要素が様々な手法で融合されていたのが、ここではバンドとしてのソリッド&タイトな音というものをまず前提として曲作りが行われている。このことは2曲の作曲にホッピー神山が参加しているあたりにも表れている。6人の個性豊かなメンバー間の危ういバランスの上に緻密に構築されたサウンド、とでも呼ぶべき緊張感が全体にただよっているのがこのアルバム。

そんな危うい美しさが頂点を極めたのが、3月にスティーブ・ナイのミックスにより12インチとしてリリースされた「トラヴェラー」と言える。この曲ではPINKの持つ魅力のすべてが完璧に融合され、壮大かつ耽美的でいて、シングルとしてのキャッチ―な側面さえ見せてくれる。

 

大作「CYBER」、そして”FINAL”

同年10月に出た4枚目「CYBER」は全14曲、66分にも及ぶ大作。前作以上にソリッドでハイテックな感覚を前面に出しており、ヘヴィなサウンドを持つ曲が目立つ。またメンバーのほとんどが曲作りに参加していることもあってバラエティに富んでいるが、散漫な印象は免れない。何よりも以前の叙情性やスケール感が薄れて、どこか閉塞された空気を感じる。やはり個性的なメンバーの集まりだけに緊張感が頂点に達してしまうと、各人の自我がぶつかり合ってバランスを崩してしまうのでしょうか。

 

さてこの秋のコンサートをもってPINKは一応の活動休止。11月28日にはこれまでの12インチとリミックスものを中心とした編集もの「FINAL MIX」が発売されます。’89年2月にリリース予定の事実上のラストアルバムとなる5作目では、メンバー各人の今後の方向性を示す作品群を聞くことができるでしょう。

(文・榊ひろと)

 

◆ACT THE FINAL 特集記事◆
(1) ライブ・レポート(1988.11.5 渋谷公会堂)
(2) PINKの音楽的変遷 PINK 5YEARS
(3) 乱反射をくり返しながらPINKは今もころがり続けている
(4) つくづく自分は音楽人間だなって思う(福岡ユタカ インタビュー)
(5) PINKは革新的なスタイルを作った(岡野ハジメ インタビュー)