1988.11.5(SAT)渋谷公会堂
劇的なラスト・コンサートでは、決してなかった。これでPINKも伝説のバンドになるのだろうか?開演前はそんな思いが頭をかすめたが、始まってみれば、エンちゃんの「これで最後です」のアナウンスにも大きな驚きの声は湧かない。誰が引退するわけでもないのだ。各メンバーは今日の日に大きな思い入れもなく、PINKが次の何かに進もうとしているのをファンも知っているのだろう。
それにしても、こんなに安心して観れるPINKは初めてだった。PINKのコンサートといえば、いつもビートの強烈さ、エネルギーの膨大さに、メンバーも観客もぐったりしてしまうところがあった。彼らはどうしてもリラックスできないライヴ・バンドだった。
ところが、この日の演奏には、グイグイ飛ばす中にも不思議な軽やかさが感じられた。
前半はデビュー作の曲を中心に、ダンス・ナンバーを5曲、そしてエンちゃんらしい幻想的なミディアム~スローを5曲という構成。
そして、岡野ハジメがギターを持ち「もうスローな曲はやりません」と宣言した「クライム・ベイビー・クライム」からは、これまでになくハードなロックぽさも感じさせるエネルギー全開の演奏が続いた。しかし、エンちゃんのヴォーカルも以前のように息が切れたりはしない。その余裕は、すでに各メンバーとPINKの音楽の間にある距離を表わすものだったかもしれないいが、そんな演奏こそ、このバンドの最後にはふさわしい気もした。
そして劇的なフィナーレも、涙も何も残さず、彼らはさっと先に行ってしまった。
(写真/幡野好正・ヒロ伊藤 文/高橋健太郎)
【セットリスト】
01. MOONSTRUCK PARTY
02. DANCE AWAY
03. ILLUSION
04. YOUNG GENIUS
05. ZEAN ZEAN
06. 日蝕譚~SOLAR ECLIPSE
07. SOUL FLIGHT
08. 人体星月夜Ⅱ
09. SHADOW PARADISE
10. PRIVATE STORY
11. CLIMEB,BABY CLIMB
12. 二人の楽園
13. FOREVER AND EVER
14. DON’T STOP PASSENGERS
15. SCANNER
16. HIKARI-NO-KO
17. ELECTRIC MESSAGE
ENCORE
01. TOKYO JOY
02. ヒネモス
03. 青い羊の夢
04. 砂の雫
05. YOUNG GENIUS
【STAFF】
ステージディレクター/中川ユキオ
PA/小野シロー
照明/船場トオル
ヘアーメイク/野元まさなお(SEINTS)
制作/富樫 勉(渡辺プロダクション)
アーティスト・マネージメント/成沢彰三(HIP LAND)
◆ACT THE FINAL 特集記事◆
(1) ライブ・レポート(1988.11.5 渋谷公会堂)
(2) PINKの音楽的変遷 PINK 5YEARS
(3) 乱反射をくり返しながらPINKは今もころがり続けている
(4) つくづく自分は音楽人間だなって思う(福岡ユタカ インタビュー)
(5) PINKは革新的なスタイルを作った(岡野ハジメ インタビュー)
「ON STAGE」1989年1月号掲載