---岡野さんは、PINKを始める前は、東京ブラボーとか、ショコラータとか、たくさんのバンドに関わってましたよね。その中で、PINKっていうのは、それまでと違うタイプのバンドでしたか?
「PINKを始めた時は、やっぱりすごく新鮮でしたよ。結成当時の東京の風潮も手伝ってたと思うんだけれど、ちょうどニューウェイヴというのが自然淘汰の時期に入っていたというかな、技術なしに、ただ感性だけを掲げる人達とかがたくさん出てきて、これじゃいけないんじゃないかなって僕自身も思ってたところだったのね。それでオムニバスのコンサートで知り合ったエンちゃんやカメなんかと、確かなテクニックに裏付けられた良い音楽をやろうって作ったのがPINKだった。それでバンド始める時っていうのは、みんながレッド・ツェッペリンが好きとか、ディープ・パープルが好きとか、そういうところから始まるの多いでしょ。PINKは全然そういうのがなくて、キャラクターも趣味もバラバラだったのも面白かったね」
---逆に、ここだけはみんな共通しているってところはないですか?
「頑固なものが集まったという点では、みんな似てたね。自分のテリトリーとかに関しては、絶対譲らないみたいな」
---それで、岡野さんにとって今までのPINKの活動の分岐点というのは、どういうところにありました?
「それはいくつかあるけれども、まずなかなか出なかったデビュー・アルバムが出た時と、『サイコ・デリシャス』である程度、セールス的にも成功した時かな。僕としては、あそこでひとつ結論出たなって感じがあった。売れるってことは、こういうことなのかって分かって、ちょっと悲しくもあったし。もちろん、嬉しくもあったんだけれど、売れるために、より多くの人に分かりやすいように、自分達の持っているメッセージとか、スタイルとかを翻訳する作業が必要なんだなって感じで、なるほどと思ってしまった」
---だからこそ、岡野さんなんかは次の『サイバー』で、それまでのPINKを壊したくなった?
「僕は『サイコ・デリシャス』みたいなのがもういいんじゃないかって思ってたね。アルバムとしては、僕はファーストが一番好きですよ。ライヴでも、演奏して楽しい曲が多い」
---ライヴが少なくなって、レコーディング・バンド化していったことについては、岡野さんはどう思っていたんですか?
「僕はライヴやんないようにしましょうとか、そういうのは言ったことないよ。気持ち的には、1月に1回か、2月に1回くらいは、小さいところでもいいからやりたかった。僕はバンドっていうのは、そういうものだと思うしね。でも、会場が大きくなると、まとまったツアーをやるしかなくなっていって、ツアー好きなメンバーっていなかったからね」
---それにしても、PINKの作り出したサウンドやスタイルは、それまでの日本の音楽になかったものだと思うんですけれど、岡野さん自身、これはPINKでしかできなかったというのは、どんなところでしたか?
「僕はPINKってひとつの革新的なスタイルを作ったバンドだと思うよ。実際に、その形式を真似ているバンドを聞くことも、最近は多くて、そうすると、これはやっぱりPINKだなって思っちゃう。やっぱり、PINKの音楽って構造が特殊なんだよね。でも、そんなにマニアックものじゃないから、真似しようと思えば真似られると思うんだけれど、具体的にいえば、リズム・パターンが1小節、2小節でひとつのパターンていうのはほとんどないんですよ。最低でも4小節パターンとか、多い時は16小節でひとつのパターンになっていたり、でもPINKの場合、そういう特殊な構造っていうのが、計算されてできてるんじゃないのね。せーので演って、そうなっちゃう。だいたい、エンちゃんが曲持ってくる時なんて、コードが6段くらい書いてある譜面を渡されるだけなんだよね。それで、じゃあやりましょうっていって、いきなりカメがカウント出すの。普通だったら、こういうリズム・パターンで行きましょうとか打ち合わせしてから、始めるじゃない。それが、いきなりカウント出されて、しょうがないからコード見て、勝手にベースのパターンを作っていくと、ああいうのができちゃう。だから、3秒とかからないですよ。アンサンブル決めるのなんて。それを後で聞き直してみると、なるほど、こういうリズムの絡みになっているのか、とか思うんだけれど」
---今作っている『レッド&ブルー』の曲なんかは、岡野さんは自宅のスタジオで作っているでしょう。それでも、そういうPINK的なものになりますか?
「そうだね。ストレートなエイト・ビートの曲とかは、僕はすごく好きなんだけれど、PINKに入るとあまり格好良くない気がするし、自然にリズム・パターンは凝ったものにしたくなりますね。だから、今回4曲くらい作ったんだけれど、これはPINK向きじゃないって、外したものもある」
---ところで、一応最後のライヴになる渋谷公会堂のコンサートですけれど、今、リハーサルしていて、どんな気持ちですか?
「なにしろ、ベース弾くのが1年ぶりだから、アマチュアに戻ったような感じだね。実際、マメできちゃったし、フレーズとかも忘れちゃってたのが多かったから、自分で何コレ?とか思ったり、妙に客観的に見られちゃったのが面白い。でも別に万感胸にせまるとか、そういうのは全然ない。最後って言われたから、最後なのかと思うけれど、気持ちが乗ったらまたやるかもしれないし。あくまで、音楽を中心に集まったメンバーだったから、情の部分は少ないバンドだったんですよ」
1988.10.26(THU)
AT ALFA STUDIO “Ast”
文・インタビュー/高橋健太郎
◆ACT THE FINAL 特集記事◆
(1) ライブ・レポート(1988.11.5 渋谷公会堂)
(2) PINKの音楽的変遷 PINK 5YEARS
(3) 乱反射をくり返しながらPINKは今もころがり続けている
(4) つくづく自分は音楽人間だなって思う(福岡ユタカ インタビュー)
(5) PINKは革新的なスタイルを作った(岡野ハジメ インタビュー)