チョッパー・ベースをビンビンと鳴らし、PINKの強靭な、狂暴とも言えるビート、リズムを叩き出すひとつの要である岡野ハジメ。今回のアルバムでもそれを聴くことが出来る。全9曲中、岡野氏の曲はⅠ曲のみ。しかしその中に、これまでのPINKのイメージとは違う、岡野氏なりのPINKが存在している。このように今回も前作同様、3つのユニットが混在するというスタイルでのリリースである。そして、グループ活動の方もひと区切りということとなった。PINKというグループは岡野氏自身にとってどういったものだったのだろうか―――。
(インタビュー・文 柴田俊宏)
■今回のアルバム『RED&BLUE』で一応ひと区切り、ということですが。
「PINKが終わったという感じも別にないんですよね。最初から、サァやるぞってやったんじゃなくて、自然に集まって始まった感じだし。振り返ってみて何か感慨深いとか、そういうことは一切なくてね。また一枚出ましたよって感じですね、このアルバムに関しては。PINK自体のイメージも僕がずっと思ってたことがあるし。」
■それはどういうことですか。
「音楽的に言うとリズムとメロディーの対比と、感覚的なことで言ったら肉体と知性、とかテクノロジーと肉体といったものを渾然と一帯にブチまけるという、そういうことが東京ぽいんではないかという最初のコンセプトと何ら変わってないから。唯『サイバー』の時からやり方が変わったからね。」
■今回も自分の曲は自分でということで、スタジオ入りも別々だったんですか。
「そうです」
■外から見てると、それは仲が悪くなっているのかな?みたいな勘ぐりがあるんですが。
「元々仲悪いからね(笑)別に仲良しこよしで始まったワケじゃないからね。今回の場合『サイバー』の時よりも別れ方ていうのは、さらにハッキリしてたからね。それは色々理由があるんですが、実際音を出す以前の思想的な背景の差というのは、もうこの時点で隠しようがないので、そういうところでもう一緒に演ってもしようがないみたいな部分もありましたから。作品的に相殺してしまうことがあるのではないかという推察で、じゃあ好きにやろうと。と、フタを開けてみたら結構、聴き易かったというのが私は興味深かったんだよね今回。」
■しかしひとつのグループが提出する作品としてセパレートして録音するといった手法をとることはネガティブな姿勢では。
「今後PINKがレコード作り続けて、ライブを演り続けて発展していくものとしてはやっぱりネガティブかも知れないね。」
■実際PINKはそれぞれの活動に移って行くワケだし、その意思表示みたいなことが含まれているんですか。
「そういうことですね。今後それぞれどうなって行くのかというのは全然見えないワケだし、全然音楽形態が変わるかもしれないし。」
■で、ひとつのバンドのあり方として、ひとつのグループの中に3つのユニットが混在したままでも良いんではないかとは考えられませんでしたか。
「レコード作品としては例えばオムニバス作品みたいな考え方でね、『サイバー』だってそうだったし今回のもそういった意味合いは深いかも知れないんだけれども、レコード作品に関しては色んな考え方が可能だと思うけれども、ライブ・アクトに関してはそれはダメだと思うのね。僕はライブを演り続けたいんですよ。と言うのはレコードには入らない情報というのがライブにはあるから、ライブの方が絶対感動の深さでいうのは比べものにならないぐらい深いと思うのね。だから僕はライブを演り続けたいんですよ。そういった音楽的なこと以外の軋轢ていうのは僕にとっては重荷だから、それはチョット出来ないなっていう。」
■ではこれから岡野サンが何かやる時というのはライブというものが、
「前提です。それを中心に置いときたいという。それがないと僕はやっぱりツマラない。それはやっぱりバンドになっちゃうと思うんだけど、バンドがやりたいし、バンドが好きだしね。」
■成程。今度はPINKというグループ全体について聞きたいんですが、活動が始まった当初、このグループに何を期待してましたか。
「混沌ですね。カオスを期待して、本当にあったからね、それが。皆んな出所バラバラだったし、音楽性も普通ローリング・ストーンズが好きだとかで演るでしょ、だけどそういったところじゃないところで強者が集まって、じゃ何演る?俺はコレ演るよって、パッと演った結果がああなったと。それはすごく面白かったね。だから自分はいつも何でここに居るんだろうみたいな感じだった。」
■それは今の段階ではどうですか。
「混沌と言えば混沌かも知れないけど、僕の考えていたのとは大幅にズレちゃったから。一枚目を出した頃に思い描いていたPINKの理想形というのは結局達成されずに終わってしまったから、それは違う形で絶対やりたいと思うのね。」
■その理想形といのはどういう形ですか。
「混沌としたまま昇華するということかな。観念的な言い方しか出来ないけど、混沌としながら透明になっていくという感じかな。」
■例えば光の三原色が混じると透明になるみたいなことですか。
「うん、そういう感じかも知れないね。そのミックスするスピードは緩めたくなかったというのはある。要するに混ぜてるのをゆっくりにしちゃうと色が見えて来ちゃうでしょ、それを見せないでカクハンし続けて、最終的にきれいな水のようなものになってしまいたいと。」
■現在のPINKの状況だと、それがどうなったんですか。
「カクハンするスピードが鈍ってしまったというのかな、それで結局汚い色になっちゃったんじゃない?」
■汚い色じゃマズイというんで別れたと?
「僕の個人的なイメージとしてはそういうのはあるね。僕はもうこの絵の具のようなものを塗りたいとは思わなくなったと、今の状態を続けて行く限りにおいてね。それが時間をおいて沈殿した時にどう思うかは、まだ時間がたたないと分からないけれど。」
(1989年4月号「DOLL」掲載記事)
「DOLL」掲載記事②(ホッピー神山インタビュー)>>
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