GIG IN ラフォーレ・ミュージアム飯倉800

’85年はPINKにとって飛躍の年だった。ファースト・アルバム『PINK』の圧倒的な評価の高さと、ライヴでの超人的なパワー。もちろんそれまでもエネルギッシュなライヴには定評があったが、アルバムを発表してからのPINKには、それまでの荒けずりな部分を少しずつ抑え、バンドも楽曲も完成度の高い方向をめざそうとする傾向が見られた。かといってそれで彼ら本来の躍動感が失われたわけではなく、むしろそれは、ガッチリと脇を固めながらさらにビートを強靭なものにしていく、というやり方だった。

そして10月からスタートしたセカンド・アルバムのレコーディング。ファースト・アルバムがそれまでライヴでやっていた曲が多かったのに対し、今回はほぼアルバム用の書き下ろしだ。基本的にはファースト・アルバムの路線を引き継ぎながらも ”良い曲、シンプルなアレンジ” をベースに作業は続けられた。

そして昨年12月の14、15日、東京はラフォーレ・ミュージアム飯倉に於いてライヴ「PINK GIG IN ラフォーレ・ミュージアム飯倉」が行なわれ、クリスマスや忘年会を控えて湧き立ちつつある季節の興奮をたずさえて、2日間に渡って延べ1,600人が詰めかけた。以下はそのレポート。


12月14日、開演を待つオーディエンでギッシリ埋まった(STANDING GIG のため完全に立見)ラフォーレ・ミュージアム飯倉800のホールには、ピンク・フロイドの初期のナンバーが流れている。が、暗闇の中、メンバーが1人ずつステージに登場してくると、ドッと歓声が湧き起こり、全神経はステージ上に集中する。メンバーが各々の楽器のポジションに付き、最後にエンチャンがポーンと跳んでフロントのマイクを握った時に、興奮は最高潮に達した。
のっけから新曲の「DON’T STOP PASSENGERS」でバーンとステージが明るくなると、ファッショナブルなメンバー全員の姿がいっきに目の中に飛び込んでくる。シングル・カットが予定されている曲なだけに、ポップで明るくキャッチーなフレーズが印象的なナンバーで、それまでのPINKのライヴで1曲目にやっていた「RECOLLECTION」の重い雰囲気をガラッと覆したオープニングだ。
続けて「光の子」、「日蝕譚」と新曲が続く。たて続けに押し寄せるダイナミックなノリに、オーディエンス側も若干圧倒されながらも踊り続ける。そして、お馴染みの曲「SOUL FLIGHT」、「SECRET LIFE」、「PRIVATE STORY」と続く頃には、久々のライヴのせいか、どこか ”観察しつつノリつつ” といったオーディエンスの態度もぐっと和らぎ、リラックスしてメンバー1人1人のプレイを堪能している、といった風。そこでシンプルな構成でとっつきやすい「星のピクニック」で、再び新曲の世界へ。ここまで抑制をきかせておいてから、イッキにシュールで官能的な新曲「GOLD ANGEL」に突入だ。イントロのリフが入ったとたんに、フロントのエンチャン、岡野ハジメ、渋谷ヒデヒロの動きが堰を切ったようにワイルドになる。客席もあおられてよりいっそう波打ち始める。
PINKの面目躍如ともいえるグラム・ファンクの嵐が吹き荒れ、ひとしきり汗を流した後は、エンチャン、渋谷ヒデヒロ、ホッピー神山を残して他のメンバーはいったん退場。エンチャンがテレキャスを抱え、渋谷ヒデヒロのつまびくストラトから紡ぎ出されるシングル・コイルの澄みきった音色のアルペジオに合わせ、弾き語りっぽく新曲の「LUCCIA」を披露。吉田美奈子作詞の、この上なく美しい曲に、客席は水を打ったように静まりかえり聞き入っている。曲のエンディングをそのまま受け継ぎながら、ホッピー神山がヒューマン・ボイス的な音色で壮大なオーケストレーションを聞かせながら、途切れることなく「人体星月夜Ⅱ」へと続く。エンチャンの透明感あふれるヴォーカルがホールのすみずみにまで響き渡り、この、ファースト・アルバムの中でも屈指の名曲の詞の一言一言が、ひとつひとつのフレーズが、我を忘れさせてくれる。
すっかり夢見心地のオーディエンスを再びエネルギッシュな原色の世界へ誘ってくれるのは、毎回ゲストでPINKに参加している横山英規のサックスと、ホッピー神山のしゃくり上げるようなシンセの絡みで盛り上げられていく「MOON STRUCK PARTY」だ。この曲、レコードには収録されてはいないものの、ライヴで必ず中盤に演奏され、ここからラストに向けて盛り上がっていくぞ、という合図ともいえる曲で、「荒野の七人」のテーマによく似たリフでお馴染みのラテン色が強い曲。ここから後は、ライヴ・バンドとしてのPINKの独壇場だ。「RAMON NIGHT」、「DANCE AWAY」、「ILLUSION」、「YOUNG GENIUS」、「ZEAN ZEAN」、「HINEMOS」と息つくヒマも無くダンス・ナンバーをぶつけてくる。こうなるともう、ステージの上も下も無い。ただ無条件にこの場、この時間を踊り切るしかない。それは切迫感とも安堵感とも違う、人間が言語でコミュニケーションする事を知り得る以前に獲得された、原初の表現形式「踊る」という行為へのシンパシーの表出だ。スティーヴ衛藤は大きなヒョウタンをくり抜いたパーカッションを持ってフロントでエキサイトする。
アンコールには先に触れた「RECOLLECTION」。疲れた顔も見せないで、この重厚な曲を演奏していく。RE-COLLECTION=再-収集が「記憶」という意味になるのは、この世のありとあらゆる音楽を吸収して自分達独自の音楽に再構築しているPINKが、聞く者の遠い記憶を揺さぶる事実にも似て、妙に象徴的だ・・・。そして「青い羊の夢」、これもかなり以前からライヴではお馴染みの曲で、ゾクゾクするようなシンセの艶やかな音色が想像力をかきたててやまない。
とうとうこれが本当のラスト、「砂の雫」が始まると、日常誰もが身に付けていた意識が開き始める。それは人によっては大脳の中に閃光が走ることかもしれないし、聴覚や視覚の果てに未知の情景が広がることかもしれない。しかし、それが確実に自分の中に潜んでいたものを揺り動かしてくれるものに違いないと実感する。PINKはそういうバンドなのだから・・・・・。


他のバンドとのジョイントでは何度か顔を見せていたものの、久々の単独ライヴ、それもほぼ3分の1が未発表の新曲だったという条件にも拘わらず少しもそのパワフルなノリを落とすことなくライヴをやり通したPINK。2月25日に発売されるセカンド・アルバム「光の子」と、その後の全国ホール規模ツアーでさらなるスケール・アップを果たしてくれるに違いない。

PHOTO:Hiro Ito(MPA)

「Player」1986年3月号掲載