「キーボードマガジン」1987年2月号に掲載された特別企画。1950年代以降の日本のロック史を紹介した上で、6組のアーティストのサウンドを分析している。


(1) 日本のロックの祖はダークダックス
(2) 海外進出も盛んになった’80年代の和製ロック
(3) 佐野元春 with THE HEARTLAND
(4) PINK
(5) KUWATA BAND
(6) REAL FISH(リアル・フィッシュ)
(7) TM NETWORK
(8) REBECCA(レベッカ)

デビューするや否や、いきなり日本のロック界をリードするトップ・グループの座に君臨し、そのまま独走態勢を続けている感のあるPINKが、前作『光の子』から1年を待たずして、ニュー・アルバム『PSYCHO-DELICIOUS』を発表しました。完成度の高さは相変わらずで、前作よりも一層ガンガン押しまくる力強さが増しているのにはまったく頭の下がる思いです。

さてPINKというと、そのサウンドのルーツとしてすぐにスティング、ひいてはポリス、というふうに結びつけられがちですが、果たしてそんなに単純に割り切れるものでしょうか?世界のトップ・グループが皆そうであるように、彼らもまた、偉大な先輩達の様々な音楽に触発され、その中で独自のサウンドを作り上げているのではないでしょうか(もちろん、後で述べるように、ポリスやスティングからの影響も確かに感じられるのですが)。

PINKのサウンドの大きな特徴は、何と言っても、ニューヨーク的なギンギンのリズム・セクションとイギリス的なかげりのあるウワモノとが、良い意味での緊張感を保ちながら渾然となっている点にあると思います。そしてその上から散りばめられたエスニックな要素も絡んで、彼らの音楽は常に、極めて無国籍な感じを醸し出しているのです。

岡野氏のベースは、音数の多さもさることながら実にパワフルで、ある意味でPINKの方向性を決定しているのは彼とさえいえます。かつてラリー・グラハムに傾倒していたというのも十分頷ける話です。

ギターはというと、リズム・セクションの一部としてファンキーなカッティング等を要求されている時以外は、イギリスの匂いを漂わせています。ロキシーに代表されるような、イギリス正統派アダルト路線とでもいいましょうか、アルべジオのフレーズといい、音色といい、好きな人なら泣いて喜ぶプレイを聴かせてくれています。

キーボード(われらがホッピー選手!!)に関しては、これもやはり前述のイギリス正統派アダルト路線のお家芸、発振しかかったようなフンワリシンセ音や、87年現在を生きるキーボーディストとしては避けて通ることのできないエレクトロニック・ポップ型シーケンス・アレンジ等が組み合わされています。また、典型的シーケンス・アレンジとは対照的な、ちょっと聴くと手弾きかとも思えるような(実際に手弾きかもしれませんが)、ヒューマンなフレーズ及び音色が登場するところは、Pファンク等、ドファンク・アレンジの影響を受けているというホッピー氏らしいのですが、曲全体の中での響きとしてとらえると、むしろトーキング・ヘッズあたりを思い起こしてしまいます。

さて、ボーカルですが、たとえ御本人に怒られても、やはりどうしてもスティングの影を色濃く見てしまいます。言われている程極端に声が似ているとは思いませんが、特徴的な符割やテンションを辿るメロディ・ラインに、共通項を見つけることができます。コーラスの入り方も、ポリス的であると言えるような気がします。

では、具体的に曲を取り上げてみましょう。まず、A①の「BODY AND SOUL」ですが、これはのっけからロキシー風のサウンドです。イントロ(EX-1)を見ていただくと分かるように、ベースはlmのトニック感を延々と保っていき、9thを中心とした他楽器のテンション展開だけで暫く進んで行きます。ちょうど同じような例がロキシー・ミュージックの『アヴァロン』の中にありましたので、参考までに載せておきます(EX-2 ”The Space Between”)。ボーカル・ラインの区切りがやはり9thで終わるところもあったりして、共通性は確かにあると思えます。

ボーカル・ラインの例も掲げておきましょう。EX-3は、『NAKED CHILD』の出だしのメロディです。とにかく拍のウラ、ウラと突っ込んで行く感じで続いてゆくのがわかると思いますが、このパターンこそスティングのオハコで、かなりの曲にこの要素が含まれています。EX-4は「孤独のメッセージ/Message In A Bottle」の中でのボーカル・ラインです。

最後に、コード進行の特徴(というよりクセ?)として、マイナーで始まる曲に多いパターンがあります。サビ前まではテンション感の強い妖しげな響きを絡ませておいて、サビにくると急にスコーンと抜けたように、殆どテンション感のない単純なドミナントやサブドミナントに移行する、というパターンです。ポリスにも「ロクサーヌ」等、このパターンの曲があります。

今までお話ししたことは、すべて部分を取り上げての事であり、全体的なサウンドはやはり強烈な個性に満ち満ちている、そこがPINKの凄いところではあります。念のため。
(小林 智)

 


BODY AND SOUL(PINK)

 


The Space Between(Roxy Music)

 


NAKED CHILD(PINK)

 


Message In A Bottle(The Police)

 

アルバム『PSYCHO-DELICIOUS』1987年1月リリース

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