「キーボードマガジン」1987年2月号に掲載された特別企画。1950年代以降の日本のロック史を紹介した上で、6組のアーティストのサウンドを分析している。


(1) 日本のロックの祖はダークダックス
(2) 海外進出も盛んになった’80年代の和製ロック
(3) 佐野元春 with THE HEARTLAND
(4) PINK
(5) KUWATA BAND
(6) REAL FISH(リアル・フィッシュ)
(7) TM NETWORK
(8) REBECCA(レベッカ)


「NIPPON NO ROCK BAND」というタイトルを冠せられたKUWATA BANDの音は、まさしく70年代に流行したハード・ロックへのあこがれとなつかしさを思い出させてくれます。桑田氏の、当時の音楽に対する思い入れが感じられます。
当時のロック少年達がみな等しく好きで、あこがれていた70年代のロックを、桑田氏は自分自身の中に取り入れ、それを彼自身によって変化させて、80年代の”NIPPON NO ROCK”として作り上げています。

70年代当時と現在とで、最も変化した楽器がシンセサイザーであることは、だれにも異論はないと思いますが、このキーボードの進化によるアレンジの変化がそのままKUWATA BANDのアレンジに出ています(EX-1 “ALL DAY LONG”)。昔のような白玉のオルガン・サウンドは影をひそめ、決めに登場するブラス系の音が多用されたりしている点などは、その明らかな例ではないでしょうか。あくまでもディストーション・ギターを中心としながらも、キーボードのアレンジや音色(ドラムも含めて)などの仕上げは80年代のサウンドである点などは、あのパワー・ステーションと非常によく似ています(バンドを離れて、自分の好きだった音楽をやったという点でもよく似ていますね)。

このKUWATA BANDは、すでにライブのアルバムも出しています。ライブそのものも素晴らしかったようで、演奏も非常に充実したものとなっています。特に注目ものなのが、サンプリング・マシンの用い方で、ライブ中にリアルタイムでサンプリングしたが、あるいはあらかじめスタジオでサンプリングしておいたのかはわかりませんが、曲の間でいきなりバンド全体のサンプリング音(もちろん桑田氏の歌も入っています)が登場し、それをリズム・アタックのように使ったりしています(ライブの、1枚目のB②「ZODIAK」に出てきます)。このあたりなどでも、工夫のあとが感じられて、がんばっているなあと思ってしまいます(EX-2)。

さて、「NIPPON NO ROCK BAND」というLPは、全曲英語で歌われています。日本人がロックをやるときに、日本語で歌うか英語で歌うかという問題は、けっこう大きな問題です。この問題に関して彼は、”ロックは英語で”という答えを出しているのです。
英語と日本語の大きな違いは、その母音にあります。日本語は、そのほとんどに母音を持ち、英語は子音の多い言語なのです。さらに、英語は1つの単語に1カ所のアクセントを置くという特性を持っています(中学生の頃は、よくこのアクセントの位置の問題がテストに出されたものです)。英語を話すときに大切なのは、このアクセントの位置を1拍と考えて、1つ1つの単語を時間的に等間隔に並べて話すことだそうで、そういう点から考えても、英語はその日常生活においても、ビート感のある言語だといえます。
ところが私達の日本語の場合、単語にはビート感がなく、50音の1つ1つにビートがあるわけです。つまり、極論してしまえば、
『ど・れ・に・し・よ・う・か・な』
というビートを、日本語は持っているということです。そこで、8ビートなり16ビートなりの曲を日本語で歌うと、その曲の大きなビートの流れよりも、メロディの、そのときそのときの8分音符や16分音符の方が耳についてしまうのです。
メロディの音程を、私達は母音で確認しています。だから日本語で歌うと、そのメロディにぴったりのコードがその瞬間にどうしても必要となって、ついコードをコロコロと当てはめていってしまうことになります。その結果、曲全体がうまく流れていかなくなってしまい、ビート感も消えてしまうのです。
これらの点から、8ビートや16ビートの曲を日本語で歌うと、どうしても歌謡曲になってしまうというわけです。桑田氏が、”日本語で歌ったものは歌謡曲だ”といって、英語にこだわったのも、この点をバク然と感じていたからではないでしょうか。

このKUWATA BANDのLPに関して、「ミュージック・マガジン」という雑誌上で、多くの論争がおこなわれています。話の発端は、同誌の藤田氏が、このLPをCD評にてこきおろしたところから始まるのですが、話の論点は、全曲英語で歌われたこのLPに対して、日本人の英語コンプレックス、さらには欧米コンプレックスを感じとってしまった藤田氏に対して、桑田氏サイドが、コンプレックスから英語で歌ったわけじゃないんだ、と反論しているところにあるようです。
私の結論をいわせていただくと、先ほども長々とつまらないことを書きましたが、ここはやはり、英語で歌った桑田氏に拍手、といった感じです。曲の作りをシンプルにして、自分が今、いちばん気持ち良いと感じられるように仕上げようとすると、どうしても歌は英語であってほしいと思うのです。
単なる言葉のノリの問題として、日本語よりも英語をとるんだという、ただそれだけのことなんですけどね。
(栗山俊一郎)

 


ALL DAY LONG(KUWATA BAND)

 


ZODIAK(KUWATA BAND)
こちらは記事のEX-2で紹介のツアーライブではなく、スタジオライブでの録音。

 

ライブアルバム『ROCK CONCERT』1986年12月リリース

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